ひよっこ作家

おはぎとコーヒー

2022.11.21

 

 掃除が1番苦手なので、どうしても夫に多めに掃除をしてほしい。範囲とか、箇所とか。

 

 共働きのため、平日帰ってきてからは夕飯や明日の弁当の用意、洗濯物を片付けることが最優先。だからもちろん掃除はしない。ただキッチンや風呂の排水溝は、平日5日間放置というわけにいかないので、そこはもちろん綺麗な状態を保てるようにしている。しかしそれには掃除をしているという意識はなく、まあここくらいは清潔を保ちたいですから…というぎりぎりの衛生観念からの行動である。

 そのため、基本的に掃除はまとめて休日にする。そりゃあ、平日に場所を分けて少しずつ掃除していたら、まとめて休日にするより、さぞかし楽なのは分かるし知ってるけど、やらないという固い意志がわたしにはある。

 しかし、かろうじて部屋を汚さないように日々暮らしたいという意識はある。例えばクッキーを食べるとき。クッキーをかじった瞬間、粉は弾けてその場に落ちるというイメージを、わたしは幼い頃からずっと持っている。そのため、わたしはいつもかじった割れ口から粉が落ちないよう、かじった瞬間すぐにクッキーから口を離さずに、ちょん、と割れ口を舐めてから、口に含んだクッキーを咀嚼するようにしている。これが煎餅だろうがなんだろうが、かじると粉が出るものを食べるときは、この食べ方を、これまでの人生で意識して身に付け、これは部屋をなるべく汚さないように日々を暮らすための知恵のひとつだ、と信じている。

 

 話は変わるが、自分の方が仕事から帰るのが遅かった日。職場を出る前に、夫に「鯖に塩を振っておいて」とLINEした。「はいよー」の二つ返事に続いて「トイレ中やけども」と返ってきた。げっ。夫のトイレ(大)はたいそう時間がかかる。付き合い始めた頃、自分の家系にはいないであろうほどの、トイレに籠る時間の長さを誇る彼にはたいそう驚かされたものだった。(今トイレ中なら、わたしが家に着く頃にも絶対まだトイレの中じゃん)わたしは、夫に鯖に塩を振っておいてもらうことを諦めた。

 塩を振って、しばらく置いてから水気を拭き取った状態で焼くことで、臭みが抜けて美味しく焼けるとどこかで知ってから、わたしはそうやって鯖を焼いている。だから、先に家に着いている夫に、今のうちに塩を振っておいてもらったら、自分が家に着いたときには、水気を拭いてすぐ焼ける状態になってるぞ、思っていたのだった。半分くらい諦めて、帰路についた。

 帰ると、鯖に塩を振り終えて、ソファで休んでる夫がいた。ありゃ、こりゃびっくり。トイレ(大)を無事終えて、お願いも聞いてくれてたんだ。鯖に塩を振ること自体、初めて頼んだので、そもそもやり方が分からないとかなんとか言って、結局できないんじゃないかなとも思っていたので、ちょっとびっくりした。(今まで、そういうことが何度もあった。)

 

 そして休日。今日こそは、わたしのたいそう苦手な掃除をしなければならない。さらに、今日は夫の両親や妹さんたちが遊びに来るので、いつもより入念に掃除しなければならない。楽しみな気持ちと、掃除だけは勘弁してください、という気持ちが入り混じる土曜日の朝。まず、景気付けに喫茶店でモーニングを食べることにした。

 来客がほとんどないこの家には、客人用のスリッパ、グラス、湯呑みがそれぞれふたつずつしかなく、妹さんの分が足りないということに今日気がついたわたしは、モーニングを食べた後、急いでもうひとつずつを100均で買ってくることを夫に伝えた。昨日も100均に行っていたのに、まとめて買ってきていればよかったと少し悔いる自分と、(しめしめ、わたしが買い物に行ってる間に少しでも掃除を進めてくれているに違いないわい。)という自分が1:9の割合でその場にいた。

 

 お気に入りの喫茶店が満席だったため、コメダ珈琲に行って豪遊することにした。モーニング1つ(トースト、小倉あん、バター)、カツパン、たっぷりたまごのピザトーストを注文。お腹がはちきれそうになった。ここでまた懸念が生まれた。こんなにいっぱい食べた後だ、わたしが100均で買い物し終わったあとも、夫はトイレ中(大)なのではなかろうか。「買ってきたよー」と荷物を抱えて帰ると、「おかえりぃ」とトイレの中からする夫の声。掃除が始まっていない部屋を見てがっくりする自分の姿。すべて、ありありと想像できた。

 この想像を現実にしまいと、店を出て、家と100均にそれぞれ向かう際、夫に牽制をかけた。「まさか、わたしが買い物に行って帰ってきてもまだトイレ中(大)じゃあないよねぇ。きっと掃除始めてくれてるよねぇー。」

「わかってるよ。のんびり買い物してこないでよ!」夫は頼もしい返事をして家に向かっていった。拍子抜けして、わたしは安心して100均に向かった。

 そして無事に買い物を済ませ、のんびり自転車を進めて帰宅した。

夫は、約束通り掃除を始めてくれていた!

 実は、わたしは100均でトイレを借りていた。あれほど食べたのでわたしも猛烈な便意に襲われてしまい、急いでトイレに駆け込み、それはそれは大変だったことを、巧みな話芸で夫に伝えた。話し終えた後、わたしも風呂掃除をしようとズボンを脱いでパンツとトレーナー姿になった。風呂掃除では、ズボンが濡れるのがいやで、いつもパンツと上衣で行っている。自分のパンツとトレーナー姿を見た夫が、少しだけ驚いた様子で「パンツにうんちついてる!」と言った。「えっ!?」よく見ると、お尻の部分に確かについていた。急いでパンツとお尻を洗って、きれいになったパンツは洗濯機に放り込んだ。パンツにうんちをつけるなんて、大人になってからしたことがなかったのであまりに壮烈な思い出となってしまい、書かずにはいられなくなり、ここへ書くことに至る。

 マユリカの中谷さんとわたしは、前から共通点があるように思っていたが、この事件を通して、また一つ共通点ができてしまった。自分は阪本さんがかなり好きなので、中谷さんに似ててもさぁ…と嬉しいような、嬉しくないような微妙な気持ちである。しかし、夫が言い放った「だから、(中谷さんもわたしも)阪本さんが好きなのかもね」という言葉に、少し納得した気持ちになった。