ひよっこ作家

おはぎとコーヒー

2023.6.9

 金曜日の夜は外で食べると決めている。今日はわたしの方が先に仕事が終わって、一旦帰宅していたので、夫の帰宅時間に合わせて後ほど駅で待ち合わせることにしていた。

 

 「19:15頃に駅に着く」と連絡があったので、18:55くらいに家を出ることにした。玄関まで行ったところで、洗濯を回してから家を出たかったのを思い出し、引っ越してから購入したドラム式の洗濯乾燥機のスイッチを入れに戻る。洗濯乾燥機は本当に便利で、QOLが格段に上がったことをつくづく実感する。前まで使っていた洗濯機は、わたしが一人暮らししていたときに買ったものを二人で暮らす家に運んだもので、一人暮らしの家では外置きで使っていたものだからか、わたしの使い方が悪かったのか、夫には「洗っても洗濯物がくさい」と非難轟々だったが、「まだ使えるんだから」と言って買い替えは断固反対していた。さすがに今回の引っ越しでは、通勤時間も増えるしなと思い、えいやと高価なドラム式洗濯乾燥機に買い替えたところ、見事にその買い物には成功したというわけだ。ただ乾燥終了後、乾燥機に衣類を放置したままにすると、かなりシワシワになってしまうので、すぐに取り出せるよう時間を逆算してから、洗濯開始のスイッチを押す。そのために、家を出る前にスイッチを押したかったのだ。それはわたしなりの生活の知恵ということだ。えっへん。

 余裕を持って家を出たつもりだったが、色々しているうちに夫の帰宅時間とちょうどか、少し遅れそうなので、気持ちは急いで坂をとっとこと下りていく。そういえば、夕方に家を出て、歩いて駅に向かうことって、初めてのことだった。わたしにとってこの時間帯は、帰宅時間で、いつだって重い荷物を背負いながら、ふうふう言って坂を上っている。だから坂を上ってくる人たちの顔を正面から見ることは初めてで、とても新鮮だった。自転車で上っていく小学生の女の子3人組。スーツを着た仕事帰りの人。百貨店で買った食べ物を両手に抱えて嬉しそうな人。電動自転車に乗る親子。晩ごはんのにおい。日と草に風を含んだにおい。水色の空に雲が点々と広がっていて、ピンク色に染まっていく広い空。わたしは、青が混ざった夕焼けの空が大好きで、この空を見ること、このときのにおいを吸いこむことに、大変幸せを感じる。人は、日光を一定時間浴びることでセロトニンを生成するというが、わたしにとっては、この夕方の時間を過ごすことが、一番体とこころにいいはたらきをしてくれているのではないかと思う。とても気持ちよかった

 駅の手前では、塾から小学生が集団で帰宅しているところだった。駅の階段から降りてきた一人の男性が、その集団に向かって片手をあげていた。誰かのお父さんかな、と見ていると、やはりその中の一人の女の子のお父さんだったようで、女の子はさっとお父さんの手を繋いで、二人で帰って行った。集団と入れ違うように、夫も階段を下りてきた。同じ場面にいたので、夫もきっと見ていたと思い「お父さんと女の子が、手を繋いで帰ってたね。かわいいね」と伝える。「うちの子も大きくなっても手を繋いでくれるといいね」「わたしはあのくらいの年のときには繋がなかったよ」今晩はインド料理屋でチーズナンを食べると決めていたので、店に向かいながら、夏に生まれてくる娘を思って話をする。

 チーズナンはたまに食べたくなって食べるのだが、毎回食べたことを後悔するくらい、それはそれはお腹がいっぱいになる。今回も漏れなく、お腹ははちきれそうになり、字の通りまんまるになったお腹を抱えて床にころころ転げて楽な姿勢を探し、苦しい、苦しいと唸ることになった金曜日の夜だった。