ひよっこ作家

おはぎとコーヒー

2023.1.22

 古本屋に立ち寄ると、10歳くらいの男の子が、大笑いしながら漫画本を読んでいた。その様子を見て、隣にいたその子のおじいちゃんも、男の子が持つ漫画本を覗き込んだ。すると途端に声を上げて大笑いし始めた。一体何の本を読んで、あれほど大笑いしていたのだろう。後ろからそーっと覗き込んでみたが、シンプルなイラストと、少しの文字が見えただけで、タイトルや詳しい内容までは見えなかった。あんまりじっと覗き込んで、2人の楽しい時間に割り入ってしまうのも何なので、わたしは大人しく店内を出た。なんだかいい風景を見た気分になった。街で、誰かが楽しそうにしている姿を見ると、自分も楽しくなる。

「何見て笑ってたんやろうなぁ」楽しい気持ちを共有したくて、わたしは友達に笑いながら聞いた。

 

 来月引っ越しをすることになり、5年余り住んだこの街を去る。この街は都市の中心で、便利で楽しくて本当に大好きだった。都会だけれど、緑や水辺もあり、優雅な暮らしを楽しんだ。行きたい場所へは大概散歩がてら、徒歩で行くことができた。新しい店が次々にでき、歩くたびに新しい発見があった。コンビニは余るほどあり、気に入るアイスを求めて、夜、夫とコンビニとコンビニを何軒もはしごして遊ぶことを楽しんだ。お気に入りの蕎麦屋やカレー屋、パン屋、理髪店ができた。次に住む街もかなり素敵で、新しい生活も楽しみだ。もちろん夫も一緒なわけだし。しかし、どうもやはりこの街を去るのが寂しくて、街のあちこちに点在する思い出に胸を馳せる。どれもいい思い出ばかりで、人と場所に恵まれた縁に本当に感謝している。初めて夫と会った場所もこの街である。夫はと言うと、すでに気持ちは切り替わり、新しい街で行ってみたい場所をGoogleマップで探し、せっせと星マークをつけている。

ここでの5年は本当に楽しかった。この一言に尽きる。寂しい気持ちをおさめるためにもここに書き残すことにする。